広告におけるCookieのリアル。大企業と中小企業の生きる道。キーワードマーケティングの滝井さんと丸山が話しました。

広告におけるCookieのリアル。大企業と中小企業の生きる道。キーワードマーケティングの滝井さんと丸山が話しました。

株式会社キーワードマーケティングの創業者であり代表の滝井さん。リスティング広告の黎明期からキャリアを積み重ね、広告業界の最前線で数々の施策を実践され、現在はベクトルグループにジョインされています。滝井さんはCookie規制の進展やデータ活用が問われる今、PRとネット広告の連携やファーストパーティデータの重要性をどう捉え、業界の未来をどう見ているのか。本音の部分を丸山がお聞きしました。

本インタビュー収録後、滝井さんの2025年の広告業界予測記事が公開されています。検索広告や広報へのスタンスなど、本記事でも語られている内容も入っており、併せてお読みいただくと今後の広告業界のイメージが深まると思います。

この記事では、2025年のネット広告界で注目すべきトピックを7つ紹介します。紹介する内容を意識しつつ、ピンチは最小に、機会を最大にしていきましょう。
www.kwm.co.jp

滝井さんのキャリアの始まり

丸山
丸山

本日はお時間をいただきありがとうございます。今日は、特に広告代理店側からみたCookie規制の影響についてお話を伺いたいと思っています。その前に、まずは滝井さんのキャリアについてお聞かせください。

滝井
滝井

はい、よろしくお願いします。私のキャリアの始まりは、オフラインの広告代理店だったのですけど、企業や組織が大きくなると、どうしても難しくなるなと感じた時に、インターネットの可能性に興味を持ち始めて、小さな会社を応援しようと思い独立しました。2000年代ですね。

丸山
丸山

滝井さんが最初の書籍を出されたのもその独立時ですよね。ニッチキーワードの狙い方などが書いてあり私も大変参考にさせていただきました。

滝井
滝井

ちょうどGoogleの検索広告、いわゆるリスティング広告が日本で広がり始めた時期でした。検索連動型広告という仕組みは、それまでの広告と違って「クリック率やコンバージョン率などの成果が無料で見れる」というところが革新的でしたし、まだまだ競合サイトも少なかったため利益も出しやすかったです。いい時代でした。

キーワードマーケティング社の成り立ち

丸山
丸山

そこから徐々に、広告運用が本格化していったんですね。

滝井
滝井

はい。最初は中小企業のお客様を主体に個人でコンサルティングを行っていました。広告費が限られている中で、少しでも成果を出せるように取り組んでいて、喜んでもらえていました。ただ、そうこうしているうちに「広告運用代行もやってほしい。Webサイトも作ってほしい」という依頼が来るようになりました。もともと私は広告代理店にいて大変さもわかっていたため、代行業務はやるつもりはなかったのですが、お客様から求められるうちに、やるしかないかなと思い、組織化に取り組むことになります

丸山
丸山

お客様からの要望に応える形で発展していくのですね。

滝井
滝井

そうなんです。その頃自分が40代だったこともあり、会社組織に取り組んでみようと思い直せたのもよかったと思います。その流れで最初は少人数でやっていたのですが、そのまま大きくなっていって、今は80名ほどの組織になったという経緯です。

株式会社ベクトルグループへの参画

丸山
丸山

インタビューでも拝見したのですが、ベクトルグループに入られる経緯について教えていただけますか?

滝井
滝井

そうですね。キーワードマーケティング社としては技術力の高さが売りで、やりがいでもありました。ただ、それなりの規模の企業とお付き合いするようになると、今度は信頼性も求められます。社員に安心して働いてもらうためにも、「この会社なら大丈夫だ」と思ってもらえるような組織づくりが必要だと感じました。

丸山
丸山

確かに、一般認知も重要な役割になってきますよね。

広報とインターネット広告の文化の違いについて

丸山
丸山

インタビューでは広報とのシナジーについて言及されていました。そのあたり実際のところはどうなのでしょう?

滝井
滝井

まずデジタルマーケティングの世界で、PR会社と組むことって実は少ないんですよ。でもお互いに「これだけでは厳しい」という状況があって、そこに連携の可能性が見えたんです。

丸山
丸山

なるほど。それは具体的にどういった話だったんでしょう?

滝井
滝井

PR会社の「ベクトル」さんからお声がけをいただいたんです。向こうもPRだけでは成果が厳しいと感じていて、僕らと組むことで新しい施策に挑戦しようという話になりました。

丸山
丸山

ネット広告とPRが連携することで、課題を補い合う形になったんですね。

滝井
滝井

そうですね。ただ、最初は本当に大変でした。文化が全然違うんですよ。PRは広報担当者と話すことが多いですけど、僕らはインターネットマーケティングの視点ですから、最初の半年はお互いにかみ合わないことばかりでした。イメージでいうと、広報は右脳型で、インターネットマーケティングは左脳型に近いと感じます。

丸山
丸山

文化の違いを乗り越えるのは苦労しそうですね。

滝井
滝井

ええ。でも、少しずつ認識がすり合わさってきて、お互いの足りない部分を補完し合えるようになりました。ネット広告では届かないところにPRが届くし、その逆もあるんですよね。

広報施策の重要性

丸山
丸山

最終的に、その連携が広告全体の効果を高めることにつながったんですね。

滝井
滝井

はい。お客様からも「認知を広げたい」という要望が増えていて、年間の広告予算の一部をPRに回す、というケースも増えてきました。特に固有名詞検索数を増やすためには、PRの役割が非常に重要なんです。本当にお客様にお伝えしたいのは、インターネット広告費で認知を増やすならば、億単位のお金が必要だということです。これを広報とうまく組み合わせれば費用対効果を最適化できます。予算を確保される前に、ぜひご相談いただきたいですね。

丸山
丸山

なるほど。広告運用だけでなく、認知施策とのバランスが大切になってくるんですね。

滝井
滝井

そうですね。これからの広告業界では、ネット広告とPRの連携がもっと進むと思いますし、私たちもその流れにしっかり対応していきたいですね。

Cookieの技術的な壁と現場の反応

Cookie規制の理解度と現場のリアルな反応

丸山
丸山

Cookieの話題についてですが、先日のセミナー「ポストCookie時代における広告主の対応策とは 成果計測への影響と1st Partyデータ活用方法を解説」でもお話されていましたよね。現場ではどういった課題を感じていますか?

滝井
滝井

Cookieって技術的すぎて、正直、理解するのは難しいですよね。私も一度聞いてもなかなか覚えられないですし、「ファーストパーティCookieとサードパーティCookieの違い」を説明しても、まず理解されないと思います

丸山
丸山

確かにマーケティング担当者でも難しい部分がありますよね。

滝井
滝井

そうなんです。アンケートを取っても、担当者で理解している人は半分以下でしたし、ビジネス全体で見れば「何の話?」という反応なんですよ。そもそも技術的な話だから、普通に忘れちゃうんです。「これ、何の話だっけ?」って(笑)。

Cookieのリアルな影響と現場の適応

丸山
丸山

もし事業側の人がCookie規制について意識がないとすると、運用を任される広告代理店側として困ることはないですか?

滝井
滝井

確かにCookieは影響があります。一番わかりやすいのはリターゲティング広告ですね。例えばiOSのサファリではサードパーティCookieが完全にブロックされていますし、「取れないものは取れない」という現実があります。でも、それが広告運用全体の大きな問題かというと、実はそうでもないんです。

丸山
丸山

どういうことでしょうか?

滝井
滝井

例えば、Chromeはまだ計測できる部分が多いですし、他の施策に切り替えれば良いだけなんですよね。結局、広告業界は同じルールで競争しているので、「リターゲティングが効かない」のはみんな同じなんです。他の施策で成果を出せば良い、という話になります。

代替手段が用意されていく

検索広告とディスプレイ広告の変化

丸山
丸山

確かにリターゲティング広告が厳しくはなってしまったけど、おっしゃる通り一部の大手企業をのぞき、条件は各社一緒ですよね。

滝井
滝井

そうです。そして広告の主軸は検索広告で、日本の広告市場において依然として強いままです。これは2023年のデータですが、電通の広告市場調査を見ても、ネット広告の予算全体の約4割が検索広告に割り当てられているんですよ。特にGoogle、Yahoo、Bingの3つが中心で、検索広告はまさにインターネット広告の柱になっています。

2023年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析
丸山
丸山

検索広告がそれだけのシェアを持っているのはすごいですね。

滝井
滝井

そうなんです。検索連動型広告って、今や1兆円を超えていて、かつ毎年伸びているんですよ。それだけ安定して需要があるわけです。仮に検索に今後AIが組み込まれていくにしても、プラットフォーマー側でなんらかの代替手段を用意していくと考えています。

ファーストパーティデータの活用と大企業の強み

丸山
丸山

おっしゃる通り、サードパーティーCookieが廃止されても、困るのはパブリッシャー側で、GoogleやMetaのような大企業は困らないですよね。

滝井
滝井

そうですね。彼らは自社プラットフォーム内でファーストパーティデータを大量に持っており、たとえばGoogleなら、検索広告やYouTube広告がありますよね。これらはGoogleのサービス内でデータを取得しているので、サードパーティCookieがなくても問題なくターゲティングができます

丸山
丸山

確かにGoogleは強いですね。

滝井
滝井

ええ。Metaも同じです。FacebookやInstagramといった自社プラットフォームを持っているので、外部のネットワークがなくても広告を配信できます。結果的に、サードパーティCookieの規制が進んでも、彼らのビジネスにはほとんど影響が出ないんです。

丸山
丸山

それは小規模な広告主や事業者にとっては厳しい状況になりますね。

滝井
滝井

そうなんですよ。サードパーティCookieがなくなるということは、小規模な事業者にとって「弱者救済」の仕組みが失われるということでもあります。たとえば、昔は個人ブログでもディスプレイ広告を貼れば収益を上げられる仕組みがありました。でも今では、検索しても大手企業のサイトばかりが上位に表示されてしまい、個人のコンテンツが目に触れにくくなっています。

データ活用と大企業の優位性

丸山
丸山

確かに二極化といいますか、大企業がより有利な時代に近づいている感覚はあります。プライバシー時代の大企業の対応についてはどう見ていますか?

滝井
滝井

やっぱり、今はファーストパーティデータの時代ですね。たとえばJRも銀行業を始めて、Suicaと連動したキャンペーンやマーケティングを展開していますよね。

丸山
丸山

確かに、大企業がデータを活用する動きは目立ちますね。

滝井
滝井

ええ。今までだったら大手企業がユーザーデータを活用するというと、個人情報を気にする顧客からのクレームを恐れたりするケースが多かったと思います。しかし、DXというムードから、既存のお客さんのデータをDXにうまく活用することで利益を出す、という流れが進んでいます。ファーストパーティデータを持っている大企業は、こういった戦略が取りやすいので、ますます強くなっているんですよね。

丸山
丸山

逆に、小さな事業者はなかなかそういったデータ活用が難しいですよね。

滝井
滝井

そうなんです。データが持てない小規模事業者は、厳しい状況に追い込まれていますね。広告市場でも、顧客IDを大量に持った大企業が中心に回るような構造になりつつありますから。

中小企業の勝ち筋。リアルが面白い

小規模事業者の課題と今後注目する分野

丸山
丸山

今日のお話をお聞きしても、本当は滝井さんのスタートは小規模のお客さんのサポートだったのに、世の中は二極化が進んでいるようです。この時代において、小規模事業者や中小企業にとって、今後どのような分野にチャンスがあると考えていますか?

滝井
滝井

正直厳しいというのが実感です。SEOもふくめて、小規模で利益を出していくというのはかなり難しい状況です。まぁ業界にもよるのですが規模感でいうなら年商10億円以下で効率良く稼いでいこうというゾーンが厳しいと感じます。適切にインターネットマーケティングだけしていれば利益が出るという風になりづらいです。

丸山
丸山

薬事法なども年々厳しくなっていますしね。

滝井
滝井

なので、基本的には生き残りをかけて拡大を目指すしかないような時代に突入していると感じます。企業として認知を重視して、よいイメージをもってもらおうという方向性も必要ですが難易度は高いです。私たちもベクトルグループと一緒になって広報系はサポートしていきたいと思っていますが。

リアルが面白い

丸山
丸山

お話をお伺いしていると、滝井さんが当初思い描いていた中小企業の可能性というのが薄れていっているように感じるのですが、そのような時代の流れの中で、滝井さんが最近興味を持っていることはありますか?

滝井
滝井

インターネット広告からは離れますが、リアルな話は面白いと感じています。たとえば、私も年を重ねてきましたが、全体的には少子高齢化する日本の中で、アンチエイジングだったり、事業承継だったり、空き屋問題だったり。それこそ課題はいっぱいありますよね。そういったリアルなところに目を向けると、解決されていない課題はたくさんあるなぁと感じます。

丸山
丸山

なるほど、インターネット広告自体は二極化は進んでいますが、リアルな世界ではまだまだな感じはありますね。

滝井
滝井

やっぱりインターネットマーケティングやデジタルマーケティングだと最適化という考え方をするじゃないですか。その視点で世の中のリアルをみると、最初にインターネットの世界にみた可能性のようなものが見えてきますよね。リアルは面白いです。

丸山
丸山

なるほど。滝井さんは今後そのような分野にも関わられたいと思われますか?

滝井
滝井

そうなら面白いですよね。たとえば日本って海に囲われていますが、思ったより法律などがあってプレジャーボートに規制が多かったり。あとエンタメも面白いですしね。そういうところに目を向けたら、まだまだ面白い可能性はたくさんあると思っています

丸山
丸山

今日はお話をお聞きできて、とても楽しかったです。ありがとうございました。

対談を終えて

キーワードマーケティングの滝井さんは昔から存じ上げていましたが、ちゃんとお話するのは初めてでした。お話を開始すると、実践者でもある滝井さんならではの話にあふれており、楽しいぶっちゃけ話もあって、あっという間の1時間でした。

印象的だったのは、滝井さんは本当にビジネス全体をリアルな目線で捉えておられるのだろうなということ。顧客心理、企業システム、それに絡むステークホルダーの心理など、全体をシステムと人という両方の視点で俯瞰して捉え、それに対する仮説検証を繰り返してきた経験の量がとても多いです。Cookie含むプライバシー規制の話題でもリアルを伝えてもらいました。

だからこそ、企業は滝井さんの経験からくる言葉を参考にできると良いと思いましたし、対談中にあった「認知向上を目指すなら数千万円をネット広告に突っ込むより、PR施策に予算を数百万円突っ込んだ方がいい」というのはその一つだと思います。こういったことを惜しげも無く話していただけたことに感謝します。滝井さんありがとうございました。