ポストCookie対策ツール カオスマップの作成に関わり、ONE’s Data(ワンズデータ)という統合データ活用プラットフォーム(※1)を開発している株式会社オプト(以下オプト)。数多くのCookie規制への対応ツールを知り、Cookie規制の対応セミナーも主催される立場として、プライバシー規制が強まる今後をどう予測するのか。本音の部分を丸山がお聞きしました。
※1 Google Cloud PlatformのBigQueryを最大限活用した、データ活用プラットフォーム。ウェブやアプリでのユーザー行動を独自で開発したタグや各社計測パートナーと連携して計測可能にするとともに、各社の所有するデータプラットフォームや基幹システムのデーターベースと接合し、企業が保持する1st Party Data(ファーストパーティデータ/企業が自社で蓄積したユーザーデータのこと)のサイロ化を解決いたします。広告プラットフォーマーのサーバーサイドAPIに広く対応しており、蓄積、分析、施策活用まで一元管理いたします。
(詳細)https://onesdata.com/
目次
オプトのお仕事
本日はお忙しいなか、ありがとうございます。貴社ではCookieレス対策ソリューションも展開されており、サーバーサイドGTMやONE’s Dataという統合データ活用プラットフォームもお持ちです。今日は、実際のCookieレスの状況について本音も交えてお聞きできればと思っております。まずはオプトのお二人がされているデータ関連のお仕事についてお聞かせください。
まずONE’s Dataの紹介からさせていただきます。私自身がONE’s Dataのプロダクトマネージャーを務めており、立ち上げから関わっています。実は、ONE’s Dataの前にSpin App(※以下スピンアップ)というアプリ系のDMPがあり、ONE’s Dataはその後継にあたるプロジェクトです。2016年当時は、特に日本市場に合わせた計測が求められており、スピンアップがリリースされました。日本独自の商習慣に合わせたツールが不足していたため、アプリ特化のDMPとして、スピンアップが登場したのです。
2015年㈱オプトにエンジニアとして入社。アプリデータマネジメントツール「Spin App」の開発プロダクトマネージャー、2017年より、スマートデバイステクノロジー部 部長に従事、「ADPLAN」、「SpinApp」、「TRIVER」、「ONE’s Data」などのデータ系プロダクトの事業責任者を経て、2023年1月より、執行役員に就任。2024年4月より、当社マーケティング・アセット本部の執行役員:VPに就任。
なるほど、そのアプリの計測が、日本の商習慣に合わないというお話は非常に興味深いですね。具体的には、どのあたりが海外のツールと異なっていたのでしょうか?
ECの例で言いますと、多くの海外ツールは、インストール後30日以内のLTV(ライフタイムバリュー)を重視していましたが、日本では月初などの各月を意識したレポートを求めるニーズが高く当月の売り上げと配信費を比較していたのです。また、新規会員と既存会員のLTVも異なりますし、アプリユーザーが初回購入なのかどうかを確認してレポートするという部分も重視されていました。
日本独自の商習慣に合わせたカスタマイズ、特にレポートが必要とされるというのは、海外の市場と比べて大きな違いがありますね。
そうですね、おっしゃる通りです。
レポーティングの先。AIも含めたデータ活用
実際ONE’s Dataのレポーティングが今は求められていますが、ONE’s DataはCDPのようにデータを管理しており、レポーティングだけじゃない、それこそAIにつながる発展もありえると思います。今後の展望なども含めて教えていただければと思います。
レポーティングはもちろん重要な機能の1つですが、実際にはそれだけで終わらせるのはもったいない部分も多いです。ONE’s Dataが提供しているものは基本的にレポーティングツールですが、広告運用の現場では、それ以上にPDCAのサイクルを早く回すことが求められていて、そのためにAIを活用しています。具体的には、広告の出稿時にAIが自動でクリエイティブのタイトルやディスクリプション、画像などを最適化していくような形ですね。
ONE’s Dataとしてはレポーティングの強化はもちろん、それ以上に施策の実行を支援する部分でもAIが活用されているということですね。データを中心に施策の精度があがるというのは、本来の理想ですよね。
おっしゃる通りです。AIによる施策の最適化は今後さらに進化していく部分であり、私たちとしても注力しているところです。
データを中心に仮説の精度をあげるには?
池主さんもデータに関わる活動をされていると思うのですが、コンサルティングに近いお仕事をしながら、分析も行っているということで。先ほどのようにデータから施策の精度をあげるという点でどのように取り組んでいるのでしょうか?
私は、主にデータを活用してどのようにデータの価値を最大化できるかを考えています。特に、仮説を立てることは非常に重要で、その仮説が的を射ていれば、その後の分析がスムーズに進みます。例えば、コンバージョンユーザーの流入元はどこか、どの地点を経由したのか。季節トレンドやイベントなどの普段と変わったユーザー行動が存在するのか、といった点を考えると、分析結果が大きく変わってきます。そのため、ヒアリングをしっかり行って、クライアントのニーズを理解したうえで、最適なアプローチを考えています。ヒアリングなくデータに向き合うのは無駄なコストがかかるという実感ですね。
オプトに入社以来、アドテクツールの導入支援業務に従事。
事業課題に合わせた計測環境の構築を得意とし、企業課題にあわせたデータ分析提案や適切なプロダクトの導入実装、データマーケティング支援まで一貫で担当。
やはり、データ活用には仮説立案が重要であり、そのためにはヒアリングが重要なのですね。どのようなチームで取り組まれているのでしょうか?
私たちのチームでは営業やアナリストがクライアントと密にコミュニケーションを取っています。そのなかで、データの切り方や分析の角度について話し合い、仮説を立てていきます。また、私たちのチームは仮説の精度を高めるために、メンバーの多くがデータアナリストとしての研修を受けています。これにより、単なるデータの集積ではなく、価値ある示唆をクライアントに提供できるよう努めています。
そうすると、営業もアナリストもチーム全体でクライアントの課題に取り組んで、仮説を立て、分析を進めるという流れなのですね。それは非常に効果的ですね。チームのメンバーのヒアリングスキルもかなり高いですか?
弊社では営業やアナリストはヒアリングスキルを訓練しており、その点に関してはかなり高いレベルにあると思います。
データ分析に向いている人
ちょっとこれ、皆さんにお聞きしているんですけれども、そういう人たちはやっぱり、なんかデータアナリストとしての経験や学習などのバックグラウンドがあるんでしょうか?それとも、素質でそういうことができるようになっているのでしょうか?
それはさまざまですね。最近の傾向としては、データ分析に関心を持つ新卒の方々が増えています。例えば、大学でSQLを学んだり、データ分析に興味を持って勉強してきた人たちが、データアナリストとしての道を選んでいることが多いです。ただ、それだけではなく、現場での学びや経験によって後天的にスキルを磨いている人もいます。つまり、必ずしも最初からスキルを持っていて分析に関わりたいと思っているわけではなく、仕事を通じてスキルを身に着けているケースも多いです。私もそのタイプです。
なるほど。そういう意味では、現場での経験からスキルを磨いていくということも十分可能なんですね。データアナリストとして重要なスキルや素質はなんだと思われますか?
物事を柔軟に考えられるかどうかは非常に重要だと思います。仮説が間違っていた場合に、すぐに修正したり、別の角度から物事を見直せる柔軟さが必要になります。スキル自体は訓練や経験を通じて身に着けることができますが、物事に対する考え方が硬直していると、うまく対応できないこともあるので、柔軟な思考が求められます。
なるほど。岩本さんはどう思われますか?
これからの時代、AIが進化していく中で、データを単に集めて分析するだけでなく、お客様としっかりコミュニケーションを取りながら、分析結果を解釈し、フィードバックする能力が重要になってくると思います。また、技術に対して好奇心を持っている人、たとえばアップルの新機能に興味を持つような人は、データ分析にも向いていると思います。
コミュニケーションと技術への興味、両方が大事なんですね。それは確かに、これからの時代に必要なスキルですね。すごく納得しました。
技術に対して興味があって、デジタルのトレンドに敏感な方であれば、非常に成長しやすい環境だと思います。
デジタル人材では多くの企業が困っているので、これはぜひ伝えたいですね。
ポストCookie対策ツール カオスマップ
今度はこの「ポストCookie対策ツール カオスマップ」についてお聞きしたいと思います。元々、今回の対談も、私が岩本さんがXで呟かれていたこのカオスマップが非常に面白いと思い「QA ZEROもぜひ」という形でご縁ができた流れですが、さすがに短時間でこのカオスマップをパッと理解するのは難しいと思います。この図をどのように理解し、何を準備していくべきかポイントを教えてもらえますか。
この図の全体像を把握するうえでは、まず、Cookieというものが広告運用においてどのような役割を果たしていたのかを理解することが重要です。Cookieは大きく分けて2つの役割があります。1つはターゲティングです。Cookieを使ってリターゲティングや除外配信を行ったり、AIによって自動で最適化する際にもCookieが使われていました。Cookieレスの時代では、ターゲティングが難しくなってくるので、別の手段としてコンテキストターゲティングやファーストパーティーデータの活用が求められています。
なるほど。1つ目はターゲティングの精度を落とさないための手法を考える必要があると。
そうです。2つ目は、計測の正確性です。Cookieを使った正確なトラッキングが難しくなるため、計測方法の改善や、コンバージョンAPIやCDPを活用した包括的なデータ活用・フィードバックすることが重要です。
そうすると、計測をしっかり行い、データの管理や活用の方法が非常に大事になってくるということですね。
おっしゃる通りです。ファーストパーティーデータをしっかりと管理し、トラッキングに対しても適切に対応することが、これからの広告運用では非常に重要になります。Cookieレス時代では、ターゲティングの精度が落ちる可能性が高いので、その分、データの活用方法をしっかりと考える必要があります。
Cookieレスは日本にも影響があるのか?
さらに一歩踏み込んでお聞きしたいのですが、Cookieがどのような役割を果たしていたかはわかりました。ですが、日本において、まだ体感的にはそこまでCookieレスの影響がないと感じる人も多いようです。実際に、Cookieレスの影響があるのか、どう思われますか?
今のところCookieレスの影響をまだ実感していない方も多いかもしれませんが、実際には、リターゲティングができなくなるというのが一番大きな影響で、特にサファリやiOSでは、すでにリターゲティングができなくなっています。この影響はすでに現れてきていますが、広告の効果測定においても、今後さらに顕著に出てくるでしょう。
影響がないと思い込んでいるだけってことでしょうか。ただ、まだChromeではリターゲティングが可能ですよね?その辺り、どう考えていますか?
むしろ逆で、データを調査してみると、現状リターゲティングは主にChromeでのみ配信されており、iOSやサファリではすでに対応できていません。日本はiPhoneユーザーが多いのですでに影響は大きいのですが、そこまで調査していないので影響の認知がないのだと思います。例えば、AIによる広告配信の最適化でも、iOSよりもAndroidに偏ってしまう現象がすでに起きています。これにより、iOSユーザーをターゲットにするのが難しくなってきているんです。
iPhone(iOS)の対応はなんとかできないのか?
そもそもの課題なのですが、iOSってなんとかならないのでしょうか?広告出稿側の正直な気持ちだと思いまして。
これは非常に難しい問題で、簡単な解決策があるわけではありません。まず、iOSではもうリターゲティングができないことが前提です。そのうえで、なるべく高い精度で計測したり、Androidに偏らないように広告配信を行う必要があります。具体的には、ITP(Intelligent Tracking Prevention)対策が施されたツールを使って計測精度を高めたり、コンバージョンAPIを活用して、広告プラットフォームに正確なデータを提供することが求められます。こうすることで、媒体(広告配信プラットフォーマー)の学習精度を高めることができます。
そういったツールを使うことで、媒体が学習しやすい環境を整えることが必要なんですね。ただ、それでも完全に解決できるわけではないような気がするんですが。
その通りです。実際、広告効果の測定において、全てをきれいに測ることは困難です。最近話題になっている「測りすぎ」という問題もありますが、あまりにも測定にこだわりすぎると、かえってパフォーマンスが落ちることもあります。マーケティングでは、すべての指標を完璧に測ることが目的ではなく、全体を見渡しながら施策の最適化を目指していくことが大切です。CPA(顧客獲得単価)やラストクリックだけに頼りすぎると、他の重要な要素を見逃してしまうことがあります。
CPA信仰は時代遅れ。広告の効果計測は新時代へ
確かに、CPAやラストクリックに依存しすぎると、全体を見失うリスクがありそうですね。
その通りです。CPAやラストクリックの測定に依存するのではなく、より広い視野で広告効果を捉えることが大切です。たとえば、アンケートやインタビューを通じたユーザーのフィードバックを活用したり、複数のデータソースを組み合わせて全体的なマーケティング戦略を見直すことが求められます。私は「脱CPA」や「脱ラストクリックCPA」という考え方をよく使います。これは、特定の指標に依存しすぎず、もっと柔軟な方法で広告効果を評価するという意味です。
今のお話で、たとえば体重を測ることに似ていると感じました。体重は誰でも感覚的にわかるものですが、実際に測らないと不安に感じる部分もありますよね。マーケティングでも、CPAやラストクリックを見ないで済むのか、測らないとどうしたらいいのかという不安があると思うんですけど、どうやってその不安と向き合ったらいいのでしょうか?
体重を例にするなら、体重だけを指標にしていると、本当の健康状態を見失うことがあるということです。たとえば、体重が減ったとしても筋肉量が減っているのか、脂肪が減っているのかは体重だけではわかりません。同様に、CPAやラストクリックだけを見ていると、実際に何がユーザーに響いているのか見えづらくなることがあります。他にも、年収だけでなく、ライフワークバランス、健康など、複数の指標を総合的に見て幸せ度を測るというアプローチが増えてきましたよね。それと同じで、マーケティングでも、1つの指標に頼らず、複数の要素を見て判断することが大事です。
確かに、ライフワークバランスや健康状態も重視するようになっていますね。マーケティングでも、CPAやラストクリック以外の指標をもっと取り入れるべきということですね。
そうです。たとえば、ユーザーアンケートやデプスインタビューを行い、広告がどう受け取られているかを確認するのも1つの方法です。また、広告プラットフォームの管理画面だけではなく、外部のデータを使って、全体的にどのように広告が機能しているのかを見ていくことが重要です。これにより、CPAやラストクリックだけでは見えない部分も把握できるようになります。
それはいいお話ですね。複数のデータソースを活用して、より正確に広告の効果を見ていくということですね。
CPAやラストクリックだけではなく、より広い視点で広告の効果を見ていくことで、マーケティングの全体像がみえてくるはずです。
トラッキング最前線。GA4のサーバーサイドトラッキング
Cookieレスの影響の1つはトラッキングというお話がありました。この対策として、カオスマップに登場している、GA4やサーバートラッキングに関して、見解をお聞きしたいです。
GA4を含むサーバートラッキングを、私たちはsGTM、サーバーサイドGTMと呼んでいます。これは、ブラウザやクライアントサイドの制約を回避し、より正確なデータを収集することができます。Cookieの有効期限の延長などにも有効です。
実際のところ、サーバーサイドでのトラッキングに切り替えるメリットというのは、どのような点にあるのでしょうか?
1つ大きなメリットとしては、JavaScriptの実行によるウェブサイトのパフォーマンス低下を回避できる点です。クライアントサイドでトラッキングする場合、JavaScriptの実行負荷がかかりますが、サーバーサイドで処理することで、その負担を軽減できます。また、サーバーでデータを収集するため、セキュリティ面でも非常に優れています。クライアントサイドでのトラッキングだと、ブラウザ側でいろいろな制約があり、データがブロックされるリスクもありますが、サーバーサイドではそういった問題が少ないです。
それは興味深いですね。GA4に関して、サーバートラッキングで何か特別な準備やインフラの設置が必要になるのでしょうか?
Google Analytics 4(GA4)のサーバートラッキングを導入するためには、Google Cloud Platform(GCP)を活用して、サーバー環境を構築する必要があります。具体的には、Google Tag Managerのサーバーコンテナを使用して、トラッキングデータを受け取り、処理します。この方法を使えば、クライアントサイドでの制約を避け、より柔軟なトラッキングが可能です。これによって、例えば、ファーストパーティークッキーの保持期間を延ばすことができ、トラッキング精度も向上します。
なるほど、GCPを使ってサーバーコンテナをセットアップするということですね。それによって、Cookieの保持期間もコントロールできるわけですね。GA4におけるサーバーサイドトラッキングが今後の主流になるのか、それとも他の方法もあるのでしょうか?
GA4のサーバーサイドトラッキングは1つの解決策ですが、全てのケースに最適とは限りません。他にも、さまざまなトラッキングソリューションがあり、クライアントのニーズや規模に応じて選択肢を検討する必要があります。しかし、Cookieレスの時代に向けて、サーバーサイドトラッキングが非常に強力なツールになるのは間違いありません。今後もサーバーサイドトラッキングを活用し、データの正確性やセキュリティの向上を図る企業が増えると思います。
サーバーサイドトラッキングの本当のメリット
サーバーサイドのトラッキングを導入することで、どのように広告の最適化が進むのか、もう少し詳しく教えていただけますか?
サーバーサイドでのトラッキングを導入することで、まず第一にデータの精度が向上します。特に、ファーストパーティークッキーの保持期間が延びることで、GA4でのユーザーの行動をより長期間にわたって分析できるようになります。ただ、今後はITP側でその対策がされる可能性もありますし、GA4がメインというわけではなく、大切なポイントは、トラッキングするデータをコントロールし、適切なデータを媒体にフィードバックする仕組みを作ったり、分析に活かすことにあります。結果として、広告の精度が上がり、より効果的な広告配信が実現できるようになります。
丸山さんが作られているQA ZEROでも取れる数字やヒートマップなどのデータがありますが、今後はGA4だけじゃなく、実際にどういうデータがどう回っているのかを理解し、さらにそのデータをどう活用するかが非常に重要です。単に数字が動いているからいい、悪いというだけではなく、どの部分でどのように影響が出ているのかを見極めることが必要なんです。
なるほど、そういった細かい分析を通して、データをどう活用していくかが大事なんですね。具体的に、どのような部分に注力しているのでしょうか?
たとえば、ユーザーの行動パターンを深く理解することです。単純なリターゲティングのデータだけではなく、どの段階でユーザーが行動を変えたのか、その理由をしっかり分析しています。特に、サイト内のUXやUIがどのように影響しているのか、ユーザーがなぜ離脱したのか、その辺りの分析をしっかりと行っています。そして、それに基づいて、ユーザーの再訪問やコンバージョンにつなげるための施策を考えています。
なるほど、それを基に広告の最適化が進んでいくわけですね。こうしたデータの活用によって、具体的にどのような成果が出ているのでしょうか?
具体的には、広告のCTR(クリック率)が向上したり、CVR(コンバージョン率)が上がったりといった成果が出ています。たとえば、広告の内容を見直した結果、リターゲティングの効果が大幅に改善された事例もあります。さらに、ユーザーのセグメントごとにパーソナライズした広告配信を行うことで、より効果的なターゲティングが可能になっています。
ターゲティング最前線
トラッキングともう一つ影響を受けるのがターゲティングでしたね。
おっしゃる通りです。特に自社データ、ファーストパーティーデータの活用がますます重要になってきています。これまでCookieに依存していた部分を、いかにファーストパーティーデータで補っていくかが、今後のターゲティングの最前線になります。コンテキストターゲティングなどの技術もありますが、ファーストパーティーデータをうまく使って、ユーザーを深く理解していくことが鍵です。
なるほど。ファーストパーティーデータの活用は、どの業界でも重要なポイントになりそうですね。広告運用でも、いかにそのデータを最大限に活かすかが今後の課題になりますね。
そうですね。特にCookie規制により、リターゲティングが難しくなってきています。そのため、ファーストパーティーデータをもとに、いかにユーザーの行動を予測して効果的にアプローチできるかが、今後の広告運用において非常に重要になってきます。また、AIの活用によって、より細かいセグメント分けやパーソナライズされた広告配信が可能になり、それが広告の効果を向上させる要因になってきています。
データ活用の未来
最後のテーマなのですが「データ活用の未来について」です。プライバシー規制によりデータの活用方法が変わっていくなかで、まだ体感として影響が見えていないユーザーさんたちが、これから「本当にまずいかも」と感じる時が来るかもしれません。今後どのように変化すると思われますか?
実際、まだCookieレスの影響を実感していないユーザーさんも多いと思いますが、これからは確実にその影響が出てくるでしょう。ITPやサファリの制限がすでに始まっていて、特にリターゲティングができなくなってきているという話が出てきています。またChromeでも今後は同じような動きが予想されるので、対応が必要です。特に、今後重要になってくるのは、やはりファーストパーティーデータをどう活用するかですね。これまでCookieベースでユーザーの購買行動を分析していたものが、サーバーサイドのトラッキングやファーストパーティーデータを使って、個々のユーザー行動を計測する形にシフトしていく必要があります。
顧客志向に立ち戻り、新しい考え方を
さきほどCPAが時代遅れになっているかもしれないというお話がありました。それでは、どういう指標がよいかなど、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
はい、CPA(顧客獲得単価)という指標は、これまで広告運用で非常に重要視されてきましたが、今の時代には少し限界が見えてきています。CPAは、広告をきっかけに、どれだけのコストで次の購買行動につなげられたかを示す指標ですが、それだけではユーザーの全体的な価値を捉えきれない部分があるんです。例えば、テレビで商品に出会い、スマホで買うといったユーザー行動を想像した時に、今までのCPA計測では限界ですし、プライバシーを考慮すると新しいデータ分析基盤も必要となるでしょう。そもそもデータも欠損していくので、従来の指標だけではカバーしきれません。
なるほど、確かに従来のインターネット広告のCPAだけでは長期的な価値や全体のパフォーマンスを把握するには不十分な部分があるということですね。その場合、どんなデータを追加すべきでしょうか?
結局どのような企業活動も、ユーザーさんと企業との関係性を良好にするのが原則になります。その前提でプライバシー時代のデータを考えた時、むしろ従来からあるユーザーインタビューのようなものに価値があるんですよね。たとえば「テレビを見て購入してくれましたか?」というアンケート結果は、デジタルデータが欠損しているなかで、ある一定の示唆を提供してくれるでしょう。「特定の数値」だけで捉える限界がきています。インタビューデータなども含めて、もう少しユーザーや自社の本質的価値にフォーカスを当てた活動が求められると思います。
今日のお話を振り返ると、「測りすぎ」の時代が終焉をむかえ、「自社とユーザー」というビジネスの原点に立ち戻り、適切な測定を検討する時期が来ているのかも知れませんね。そういう相談を行いたい場合って、誰に相談するとよいのでしょうか?
私たちのような広告代理店に、まず相談されるのがよいと思います。現状を知り、以前と比べてiOSへの配信がないことを知ると、驚かれると思います。広告主さんには事業を進めている肌感があると思うので、その肌感と、データとの乖離がないかをチェックし、今後新たに測定すべきデータや、何を目標に自社のマーケティングに取り組むのか?ということを相談されるのがお勧めですね。
オプトさんでも受け付けられているのでしょうか?
はい、私たちの部署はもともと広告運用だけでなく、様々なデータ分析をする部署です。ぜひ、お問い合わせいただければと思います。
今日は、いろいろネットでは出てこないリアルなお話が聞けました。ありがとうございました。
対談を終えて
お話していて、お二人から共通で感じたのは「ユーザー理解」への真摯な取組です。アンケートやインタビュー、顧客との対話を含めてデータと捉え、顧客理解の精度をあげようという試みは、本質的であり、経験上、私も一番大切だと思っています。
とはいえ、まだまだ定量的な数値データしか信じないというムードは強く、定性的な話をしても、なかなか社内説得に苦労しているという話もよく聞きます。この問題に対し、岩本さんから年収のたとえでわかりやすく話してもらったのは目から鱗でした。確かに、我々はもはや年収だけでなく、もう少し多角的に自分達の幸せについて考えていますし、肌感覚もむしろ大切にしています。
それに比べると企業のインターネット広告活動が未だ単一のCPA中心で、多角的な視野で取り組めていないのは古いのかも知れません。AI・プライバシー時代に入ったことで、定量だけの時代が終わり、むしろ定性面を科学する時代に入ったのかも知れないと思いました。お二人ともありがとうございました。
※今までの専門家のみなさんとの対談をまとめた冊子「クッキー廃止の影響とウェブの未来:専門家たちの提言 -vol1-」も無料配布しています。登録不要で閲覧・ダウンロードできますので、よかったらご利用ください。