私たちはCookieレスで計測可能なアクセス解析ツール「QA ZERO」「QA Analytics」を制作していますが、日本ではCookie同意に関する法律は現在進行中です。この中にはAIとCookieに関する議論が明確に含まれていて、GDPRに倣うのではないか、という見方があり、日本弁護士連合会の提案でも明確にCookieポリシーが含まれています。
したがって、近い将来日本でもCookieバナーが必須になる可能性もあり、すでに対応が必須な欧米ではどのようにウェブサイトを運営しているのか興味がありました。
そこで、QAシリーズを知ってもらう目的と、アクセス解析のアンケートも兼ねて、今回WordCamp Europe 2025にスポンサーとして出展をして探ってきました。
会場の様子
アンケート結果
82人が回答してくれました。質問もすごく多くて、嬉しい悲鳴でした。

Q1. GA4の利用はしている?
Q1.Do you use GA4 for your site?
YES | NO | Neither | 合計 |
---|---|---|---|
55 | 24 | 2 | 81 |
67.90% | 29.63% | 2.47% | 100% |
- 67.9%の人はGA4を利用している
- 自分のサイトでは使わないけど、クライアントサイトでは使う、という意見もよく聞かれた
- 使わない人は下記の理由
- プライバシーが気になる
- Cookieバナーがあるので数値を見ても意味がない
- アクセス解析が時間の無駄
- 回答なしの1名はGA4を知らない人
Q2. GA4はCookie同意がないとデータ取得しないことを知っている?
Q2. Did you know GA doesn’t track without cookie consent in the EU?
YES | NO | Neither | 合計 |
---|---|---|---|
64 | 18 | 0 | 82 |
78.05% | 21.95% | 0.00% | 100% |
- 78%の人は知っている
- ほとんど知っていて「だから困っている」という意見が多かった
- 知らない人は下記の理由
- GA4の数値が変わったのはUAとの仕組みの違いだと思っていた
- あまりGA4に詳しくない
Q3. データを活用してサイトを改善したい?
Q3. Do you want to improve your site using data?
YES | NO | Neither | 合計 |
---|---|---|---|
73 | 5 | 2 | 80 |
91.25% | 6.25% | 2.50% | 100% |
- ほぼ全員ともいえる91.25%の人が「もちろん!」という意見
- どっちともいえない人は、データだけ見ても改善は難しいよね、という意見
- NOの人は「データよりお金が欲しい」という冗談などもありました笑。
- 回答なしの2名はデータの定義など答えが難しいなぁという理由
住んでいる地域
※これは会話の中で聞いていったので、大雑把な把握になります。
- 多かったのは、ドイツ、フランス、スペイン、ポーランド
- 他にもポルトガル、ノルウェー、イギリス、オランダなど本当に幅広かったです。
- 変わったところでは、アゼルバイジャンやウクライナから来た人もいました。
- なお出身はナイジェリアなど他の国だけどスイスやアメリカの企業で働いている人もいます。
- どちらにせよ、欧州はCookieバナーが必須で、EUに加盟していないスイスも必須です。
- またインドの人もCookieバナーが必須だそうです。とても法律が厳しいと言っていました。
- 2024年に台北で聞いた時、「インドネシアの人が2025年から」という話しをしていたのと同じ様子です。拡がっている気がします。
実際に話してみた感想
「GA4に困っている」という意見
まず「アンケートの通りでGA4が役に立たないんだよね」という意見で、これはGA4の画面が難しく、かつCookie問題があるのでますます使えない、ということのようです。
どうやらGA4を難しいと感じるのは世界共通のようです。
QAのプライバシーポリシーのウケがとてもよい
QAは2019年の開発当初から個人の追跡をしないポリシーで制作していて、それは「自分がされたら嫌だから」というシンプルな理由です。
この哲学が、本当に欧州の人にとってウケがよく、とにかく説明をした上でUIを見て”Cool”、”Amazing”という嬉しい声をたくさんもらいました。
最初は「お世辞かな」と思ったのですが、その後に同僚をつれてきて「これ見てくれよ!」って言ってくれる人も多かったので、本当に褒めてくれているのだとわかりました。
そして、私たちが知らないIndependent Analyticsというソフトも教えてもらったり、Matomoを使っている人達もいました。プライバシーは彼らにとってとても大切なのだと改めて感じました。
質問や意見がぐいぐい来る

とにかく一番最初に興味を持たれるのが「GDPR対応」のところ。
プライバシー問題にみなさん関心があり、どういう仕組みかすごく聞かれました。データの保存場所もすごく聞かれました。
その上で納得してもらい、あとはディスカッションが始まります。主に出た質問と回答を下記に記載します。
※左:私(丸山)右:通訳のミカエル
質問内容 | 回答 |
---|---|
APIがほしい | 今年中に対応予定 |
SEOのデータはどこからくるの? | Googleサーチコンソールデータから取得する |
広告の分析をできないか? | 今年中に広告分析Brainsを作成する予定 |
いつから作っているの? | 2019年から一歩ずつ作ってきた |
IPを取得しないのは素晴らしいが、国別データはとれないか? | 前向きに検討する |
登録は必要あるか? | QA Analyticsは不要。我々はあなたのデータを一切取得しない |
WooCommerceと統合してほしい(複数人) | 前向きに検討する |
Clarityのようにセッションが繋がらないということはないか? | ない |
1000社のサイトを運営しているが、統合管理みたいなことはできるか? | APIを用意するので、それで自動化できると思う |
Webサーバーに影響を与えないように他サーバーで構築できるか? | QA ZEROなら可能 |
どのくらいのトラフィックに耐えるか | QA ZEROは月間1000万PVをさばいた実績がある |
CPUはどれくらい使うか? | 正確に測ったことがないが、数百万PVのサイトで2CPUで5%程度だった |
JavaScriptのサイズはどれくらいか? | 正確に測ったことがないが1KB程度だと思う |
GoogleTagManagerと併用できるか? | できる |
GoogleTagManagerのカスタムイベントのような機能はあるか? | GAの設定を自動的に読み込む。UIを検討中 |
GA4の代わりに使った方がいいか? | QA + GA4の併用を強くお勧めする。GA4はGoogle専用広告ツールとして重要 |
ヘッドレスCMSに対応できるか? | やったことがないが、SAPと同じなので難しいかもしれない。トライしてフィードバックをもらえたら嬉しい |
あと、驚きの3社が来てくれました。
一社目はWooCommerce本社の人で「すごく良いから、ドイツのダイナミックIPは知っておいた方がいいよ。僕らも5年前に作ろうと思ったけど諦めたから頑張って!」といった貴重な意見をもらいました。ただ議論が熱くなるほど彼の英語の速度が速くなってしまい、完全に聞き取れなかったのが悔やまれます。。
二社目はGoogle本社のSiteKitを開発している人(広告部門にいるらしい)です。彼は途中まで素性を明かさなかったのですが、「これすごくいいね」と言ってくれました。我々はGA4と併用した方がいいということをずっと言っていたので、よかったです笑。そもそも私たちはGA4やClarityと全く方向性が違うと思っていて、どうやってそれを多くの人に理解してもらうか、今後のプロモーションが大切だと思いました。
最後はアラブ最大メディアのアルジャジーラの人。QAに興味をもってくれて、これはヘッドレスで動くか?とか、どのくらいのトラフィックまで耐えるか?などを詳しく聞かれました。実は恥ずかしながら後からミカエルから「あの人達アルジャジーラだよ。たぶんCNNレベルの世界最大のメディア。知らないの!?」と言われて、アルジャジーラの存在を知った次第です。
日本で知っておいた方が良さそうなこと
GA4が役に立たなくなる
Cookieバナーが必須になると、GA4の難しさも相まってですが、あまり使い物にならなくなるようです。
欧米とは言わない方がいい
日本だとついつい欧米という言葉を使ってしまうのですが、肌感でいうとアメリカとヨーロッパは全然違いました。Googleなどのアメリカ発の企業が嫌いな人も多く「勝手にデータを使って儲けやがって!」という怒りにも似た話すら聞きます。
今回、友人経由で4カ国語を話すミカエルに通訳のサポートをしてもらったのですが、彼の話しでも、ドイツやスイスの人は「守る」という意識やプライバシー意識がすごく高く、ほぼCookie同意はしないという話しでした。
TCFという標準規格

TCF(Transparency and Consent Framework)は欧州インタラクティブ広告協議会(IAB Europe)とIAB Tech Labが策定した、デジタル広告業界向けのプライバシー標準規格です。多くのベンダーが対応しており、左記イメージのようにCMPと連動して、同意管理がスムーズになります。
画像は海外のWi-Fiから閲覧した時の毎日新聞のサイトで、TCFの案内が表示されており、かなり自動化されている印象です。今後、同意管理はどんどん自動化していき、基本的にユーザーからNOを突きつけられるケースも増えるのではないかと感じました。
Cookieバナーは慣れる
最初はわずらわしいと思っていたのですが、全部のサイトに表示されるので慣れました。逆にないと不安になります。
これは自分でも驚きで、今までの私の将来予測では、このCookieバナーは邪魔だから形を変えると思っていたのですが、その予測を変更しました。おそらくCookieバナーは慣れの結果、企業ブランディングに影響し始めると思います。最近インドも追従したので、これはもう逆らえない流れな気がします。
GDPRの発祥はドイツ
ドイツはプライバシー意識がもともと高く、ダイナミックIPアドレスで、IPアドレスも定期的に変わるのだそうです。そもそもGDPRの発祥はドイツらしく、ドイツではDSGVOといいます。
GDPRは英語だけ
GDPRと言えばだいたい通じるのですが、各国で実は名称が違い、GDPRを知らない人もいます。以下にあげておきます。
国・地域 | 現地語での正式名称 |
---|---|
EU全体(英語圏) | General Data Protection Regulation |
ドイツ | Datenschutz-Grundverordnung (DSGVO) |
フランス | Règlement Général sur la Protection des Données (RGPD) |
スペイン | Reglamento General de Protección de Datos (RGPD) |
イタリア | Regolamento Generale sulla Protezione dei Dati (RGPD) |
オランダ | Algemene Verordening Gegevensbescherming (AVG) |
ポルトガル | Regulamento Geral sobre a Proteção de Dados (RGPD) |
スウェーデン | Dataskyddsförordningen |
フィンランド | Tietosuoja-asetus |
ポーランド | Ogólne Rozporządzenie o Ochronie Danych (RODO) |
今回のヨーロッパで感じたこと
私が感じたのは3つです。
相手への敬意と信頼が、プライバシー保護に繋がっていく



私はヨーロッパに行くまではGDPRはやりすぎなのでは?と感じていました。しかし実際に行ってみると、彼らは誇りを持っています。詳しく聞いていくと、この問題は歴史と地政学の話しであり、とても共感できました。たとえばスイスでは、議会も自分達で作り上げ、自分達の民主主義を作ってきたという自負があります。彼らは自分達のことは自分達で決めたい大人なのです。
そういう話しを聞いていくうちに、裏で秘密裏にデータをとるという考え方は実は日本にあっていないのでは?という気持ちになってきました。アメリカに影響されすぎたのではないかと。
日本のパスポートの強さが示すように、日本人は正々堂々と世界と対峙してきた民族であり、私はなんとなくヨーロッパの考え方に納得感があります。
QAは最初から「不特定の個人を特定したところでサイト改善には関係ない」という考え方で作ってきました。個人を特定してパフォーマンスがあがるのは広告だけで、一見さん向けのクリエイティブには関係なく、人のクリエイティビティを刺激するUIこそ大切です。そして私はそんな一人一人のクリエイティブの力を信じています。
今後どうなるかはわかりませんが、もしCookieバナーが「正々堂々の証」として機能するならば、実はそれは日本にとっては望ましい変化なのではないかと思ったのです。
今回訪れたスイスは、社会の安定と高度な資本主義を両立させており、日本はアメリカより、ヨーロッパのやり方から学べるところがありそうな気がしています。
新しいデータ分析ソリューションが必要
二つ目は、多くの人が「データを使ってサイトを改善したい」と思っているけど、適切なソリューションがまだこの世に存在していないこと。
そんな中、今回QAをプレゼンテーションして、GoogleやWooCommerceの人から褒められたのは嬉しい驚きでした。
私は下記ブログ記事で書いたように、今後のアクセス解析はAIと人間の協業と、保有しているデータ量がキーポイントになると思っています。
そうなってくるとファーストパーティーデータとAIの融合が合理的な解だと思っています。そもそも外部サイトではプライバシー時代に対応できませんし、QAのようなプロダクトは初めてみた、と言ってもらえたので、このまま作り続けたいと思っています。
日本人はもっと自信をもった方がいい
これは向こうの人からダイレクトに言われたのですが「日本のサービスとインフラの質の高さ、また仕事への妥協のなさは類を見ないレベルであり、すごく自信をもった方がいい」と言われました。自虐しがちな日本人ですが、実際にスイスという先進国においても日本のサービスと比べた時に日本の質の高さを感じましたし、今回QAシリーズが受け入れられたことも含め、もっと自信をもって世界に出て行ってよいのだと思いました。
まとめ
本ブログではヨーロッパで聞いたアクセス解析事情からはじまり、今後我々が参考にできそうなことをまとめてみました。
今までCookieがなくなることに、なんとなく怖さを感じていたのですが、実際にその中に入ってみると、大変さはあれども、悪いことばかりでもないと感じることができました。
今できる範囲で、何をするか。そして、今後、我々は自社の良さとして何を打ち出していくのか。そういう風に考えれば、まったく違ったアプローチもとれるのではないかと思った次第です。
なお、今回のイベントで様々な地域のヨーロッパの人達と繋がることができたので、もし現地の人にこんなことを聞いてみたい!という方がいれば、いつでもご連絡ください。