新年おめでとうございます。
今年はじめのブログ記事として、2025年アクセス解析業界の予測を行ってみます。
私自身、過去にはユニバーサルアナリティクスの終焉や、MicroSoft Clarityのデータ保存期間が短くなることなど、割と予測を当てていると思いますので、ちょっとした新年のエンタメとして楽しんでもらえたらと思っています。
アクセス解析は終わり、二極化していく
いきなりショッキングな出だしですが、悲観的な意味ではありません。
アクセス解析の概念が変わり、新しい時代が始まりつつあるという意味です。
これに伴い、業界は二極化していくと予測しています。
明治維新後、髪結い職人がちょんまげを結う仕事を続けた一方で、洋髪を扱う床屋が増えたように、時代に適応するかどうかで未来は分かれます。大切なのは「顧客が喜ぶ髪型を作る」ことであり、その手段としてちょんまげがあったと考える柔軟性です。
変化の時代は「自分の仕事の価値は何か?」を中心に考えれば、むしろ誰もいない道だらけです。
今回は「なぜ従来のアクセス解析が終わるのか?」からはじめて、チャンスはどこにあるかについて触れます。
なぜアクセス解析は終わるのか?その背景と理由
時代の背景:変化するデータ環境
1. デバイスの多様化
スマホやタブレット、スマートスピーカーなど、多様なデバイスが普及しています。ユーザーは複数のデバイスを横断して行動するため、旧来のCookieベースのウェブトラッキングでは全体像を把握できなくなりました。その結果、ウェブサイト”だけ”の分析の価値が相対的に低くなっています。
2. プライバシー規制の強化
プライバシー保護の流れが加速し、ユーザーデータの収集方法が制限されています。既にGDPRに対応した海外サイトでは、GoogleアナリティクスもMicrosoftClarityも同意なき70%のデータをロストしています。昨年のGoogleの発表でもありましたが、プライバシーコントロールは今後ブラウザ側に搭載される流れが想定され、そうなってしまうと法律にかかわらず第三者ベンダーであるGoogleやMicrosoftは基本的にデータ取得が困難になるでしょう。
3. GoogleとMicrosoftが変化せざるを得ない
上記のような不利な流れがある中で、GoogleやMicrosoftは、AI競争や自社メディア広告、クラウド事業への転換を優先し、アクセス解析ツールへの投資を縮小していくと考えられます。彼らにとって無料でアクセス解析ツールだけを提供する経済的メリットはないからです。実際、私がユニバーサルアナリティクスの終了やMicrosoft Clarityの保存期間短縮を予想できたのは、クラウドコストの負担を考慮した合理的な判断によるものです。
今後、Googleは広告のための情報収集やBigQueryなどデータ分析基盤の強化に集中し、MicrosoftはそのGoogleが手薄になった隙を狙いますが、プライバシー規制の強化と巨人同士の邪魔し合いにより、期待したほどの成果は得られず、両社ともこの分野での主目標(世界中のサイトにタグを設置する)を達成した後、次第に適切な距離を置くと予測しています。
二極化する未来:衰退か、進化か?
上記の時代背景を簡単にまとめると、下記になります。
- アプリやSNSなど流入経路が多様化し、ウェブサイト自体の価値が相対的に低下する
- プライバシー規制で法的リスクが上がり、データ取得が困難になる
- GoogleアナリティクスとMicrosoft Clarityがトーンダウンし、少しずつ役に立たなくなる
1.今までのアクセス解析は衰退していく
この結果、多くの企業はアクセス解析自体に価値を感じなくなり、リソースを割くのをやめ、定型レポートで状況を把握するだけになるはずです。実はこれ、今までもそうだったのですが、その覚悟が生まれるといった方がよいかも知れません。これが私の予測する「従来のアクセス解析の終焉」です。
2.一方で新しい時代もはじまる
しかし、この終焉は新しい時代の始まりでもあり、それに気づいている企業は、むしろ積極的に既存のアクセス解析を超えたデータ活用を考え始めるはずです。
同じ時代背景なのに、なぜこのような違いが生まれるのか?これは、ちょんまげの例のように、アクセス解析に期待していた価値は本当はなんだったのか?ということから考えると、答えが見えてきます。
新しいデータ活用のはじまり
アクセス解析への多くの期待は「改善のヒント」
多くの人は、アクセス解析から「どのようにサイトを改善したらよいのか?」というヒントを期待してきました。でも、これまでうまく活用できなかった理由は以下の3つです。
- アクセス解析(≒Googleアナリティクス)が難しすぎる
- アクセス解析に時間がかかる割には、ヒントが手に入らない
- 何かわかったとしても対応する時間がない
この3つの課題を解決するために、プライバシー&AIの時代背景も後押しして今までとは違う新しいデータ活用がはじまります。
プライバシー時代の新データ戦略
データのみなおし
Googleアナリティクスからサイト改善のヒントを得づらい理由の一つに、データが足りないということがあります。それに気づいているMicrosoft Clarityなどのツールは、ページ内行動データやクリエイティブのデータを取得するようになっています。
しかし、これからの時代はプライバシー問題が覆い被さってきており、Clarityも昨年末に注意喚起を出しました。そこで重要になるのは、プライバシーを意識しながら、AIに渡すとサイト改善業務が効率化するデータについて考えること。そして、その観点で特定ツールに依存せずデータを複合的に取得することです。
複数ツールの併用でトータルコストを下げる
よくQAとGA4どっちを入れるべきですか?と聞かれますが、私は併用してくださいとお伝えしています。別に特定のツールだけに頼る必要はなく、併用して業務が効率化するならそれで構わないわけで、特にプライバシー時代であれば、トラッキングデータの適切なポートフォリオを組む方がリスク分散の意味でも理にかなっています。その方がトータルコストが安いことも多いでしょう。
AIとプロが生む新たな価値
アクセス解析のもう一つの大敵は「時間がかかること」でした。 この課題に関しては、多くの人が感じているようにAIが大きくゲームチェンジになると思います。
AIの可能性と課題
残念ながらClarityのAIが示すように、まだまだAIだけの分析は発達途上ですし、データの問題などから物理的、論理的に解決できない課題も多いです。しかし、AIを補助ツールとして活用することで、プロの分析精度と作業効率は飛躍的に向上します。
AIとプロの協業が生む新時代
たとえばBigQueryの分析作業はAIにより劇的に効率化しますし、改善策としてのクリエイティブの作成スピードも格段にあがります。このように、これから数年はAIと人との共同作業が効率化に大きく影響を与え、アクセス解析&サイト改善業務の再構築ともよべる変化が起こると予測しています。
- AIを活用すれば、データ分析がスピーディーでシンプルになる
- 自動化できる部分はAIに任せて、人はクリエイティブな作業に集中できる
このことは、もう一つのアクセス解析の課題であった「分析してもヒントが手に入らない」という課題を解決することにもつながります。ヒントが手に入らない理由は、実はデータの不備ではなく、プロのアドバイスを得た方が早いことも多かったのですが、これからの時代はプロの処理能力があがるため、多くの企業をより効率的にサポートできるようになります。
古い価値観 or 新しい価値観
2025年は今までの延長線上でアクセス解析を捉えるのか、新しい時代が来ると思うのかで、企業や個人のスタンスに違いが生まれてくる年になるでしょう。
古い価値観のままの場合
定期レポートと、時々のGoogleアナリティクスの分析に重点がおかれた運用が続くと思います。Microsoft Clarityは多少便利だけれども、AIはまだまだ期待外れで、データ活用は難しいままです。この価値観ではアクセス解析自体は不要・衰退の方向に向かうでしょう。
新しい価値観でデータを捉える場合
この観点で眺めた場合、ツールよりも「データ」に重点がおかれます。そして、AIを味方につけることで、時間の投資対効果が、急速に改善されていくことに気づきます。AIにどのデータを渡すか?という視点に変わることで、新時代のアクセス解析に足を踏み入れることになります。
アクセス解析の本質はデータによる「ウェブ運用の効率化」
結局のところ、データを用いて何がよいのかといえば、合意形成が早くなること、施策を当てるまでのサイクルが早くなること、自動化できることといったことが挙げられますが、一言でいえば「ウェブ運用を効率化できる」ことがメリットです。残念ながら今までのアクセス解析は、この効率化のメリットよりも、分析コストが高すぎて、取り組む意義が見いだせない状態が続いていました。
しかし、前述のようにAIとプロのタッグが今後この分析コストを押し下げていきます。このような変化が来るかも知れないと感じる人に対し、私が今後大切だと思っている3つのポイントをお伝えします。
ファーストパーティデータの時代へ移行する
データの第三者提供がどんどん制限されていくので、必然的にファーストパーティーデータが安全になります。
データは併用すると価値があがる
データとは証拠みたいなものですので、必ずしもID統合されていなくても証拠データをたくさん集めていけば、推論の精度があがります。AIと人との協業時代なので気楽に考えましょう。
難しいツールを覚える必要がなくなり、AIエージェントがデータとのコミュニケーションをサポートするようになる
2025年は様々な箇所でAIエージェントと呼ばれる機能が話題となっていくと思います。QA ZEROのBrainsも広義のAIエージェントといえますので、下記画面を見て貰うとイメージがわきやすいと思います。
今後は多くの人にとって難しいデータツールの操作を覚える必要はなくなっていくと思いますし、QA ZERO自体もその方向性で開発を進めています。我々はアクセス解析ツールを作っておらず、データ活用ツールを作っています。
まとめ
まとめ:2025年のアクセス解析業界を生き抜く3つのアクション
1.データ基盤の再設計
ファーストパーティーデータの強化とプライバシー対応を意識し、AIに良いデータを渡せるか?という視点で考えましょう。データが長持ちします。
2.AI活用による業務効率化
AIと人間の協働を取り入れ、データ分析のスピードと精度を高める準備をしましょう。外部のプロの力を借りるのも良い手だと思います。
3.複数ツールを活用する柔軟性
特定のツールに依存せず、データソースを分散・補完してリスクを分散させましょう。その方が法務やサイト改善に関わる人件費なども考えてトータルでコスト安になることも多いと思います。
プライバシー関連の情報については、こちらに昨年私が有識者の方にお聞きした内容をまとめた資料をおいておきます。登録不要でどなたでも閲覧・ダウンロードができます。今年はぜひフラットな気持ちで情報を仕入れて、良い一年にしましょう。本年もよろしくお願いします。