「顧客のタッチポイントこそが企業の収益源」アタラの杉原さんと丸山が企業のデータ活用について話しました。

「顧客のタッチポイントこそが企業の収益源」アタラの杉原さんと丸山が企業のデータ活用について話しました。

2024-09-18

先月のGoogleのサードパーティーCookie廃止の撤回は大きなニュースとなりました。そのニュースをいち早く、かつわかりやすく説明されているアタラの杉原さん。MarkeZineに寄稿された『「Google「3rd Party Cookie “廃止の撤回”」の真意 アタラ杉原剛氏が解説』は、多くのマーケターにとってGoogleの考えを知る貴重な資料となっています。黎明期から日本のインターネット広告業界をずっとリードされてきた杉原さんは、今後をどう予測するのか。また日本企業と海外企業の違いは何なのか。本音の部分を丸山がお聞きしました。

アタラさんのお仕事

丸山
丸山

本日はお忙しい中、ありがとうございます。今日は特に、日本企業がAI時代においてどのようにデータを活用し、プライバシー保護を進めるべきかについてお話を伺いたいと思います。特に海外企業との違いなどに興味があります。まずは杉原さんのキャリアについてお聞かせください。

杉原
杉原

ありがとうございます。アタラは2009年に設立し、今16年目を迎えています。最初は私一人で始めたのですが、徐々に成長し、今ではグループで50人規模で活動しています。スタートはAPIを使ったレポートツールなどいくつかのツールを開発し始め、現在はレポーティングツールなどの開発と販売、そしてマーケティングコンサルテーション、広告運用代行や、インハウス運用支援、データマネジメント支援などを行っています。

丸山
丸山

2009年は広告運用のAPI利用なんて聞かない時代です。だいぶ早い気がしますね。

杉原
杉原

私自身、以前はオーバーチュアの立ち上げや、GoogleでGoogle広告の営業戦略やYouTube事業立ち上げに関わっていたんですが、その時にプラットフォームの力に感銘を受けていました。2002年頃から、APIの重要性に気づいていたのですが、誰もやりたがらなかったので自分で手を動かしていました。アメリカではすでに大手の広告主が自動化を進めていたので、日本も同じことをしなければならないと思ったんです。その使命感で今日まで続けてきました。

丸山
丸山

それはすごいですね。2002年というと、まだインターネットが一般に普及し始めた頃だと思いますが、その時点で自動化の必要性に気づかれていたとは。

杉原
杉原

特にAmazonは当時から凄まじい自動化を進めていましたからね。それを目の当たりにして、これは日本でも取り組まなければならないと強く感じました。そこから、自分で手を動かしてAPIを叩いたり、SEOの黎明期にも興味を持って取り組んできました。

杉原さんの危機感。今、何が起ころうとしているのか?

丸山
丸山

杉原さんのキャリアのスタートはインターネット業界以外からだったとお聞きしましたが、どのような経緯で現在に至ったのでしょうか?

杉原
杉原

最初はKDD(国際電信電話)に入社し、国際専用回線の導入コンサルタントをしていました。非常に好きな仕事でしたが、家業を手伝うために一度退職し、その後再出発してインテルに入りました。そこで初めてマーケティングに触れ、インターネット時代が到来したタイミングでGoogleに入り、インターネット広告に関わることになりました。

アタラ 杉原剛氏プロフィール

アタラ株式会社 創業者兼代表取締役CEO。KDDI、インテルを経て、オーバーチュア(現Yahoo!検索広告)、Google日本法人で広告営業戦略を担当。2009年にマーケティングのコンサルティングサービスやツールを提供するアタラを創業。プラットフォーム広告、リテールメディアなどの最新情報を発信する、日本では数少ないプラットフォームビジネスアナリストでもある。「プラットフォームの思考回路」チャンネルをX、LinkedIn、Voicyで運営。

丸山
丸山

なるほど、インターネットの夜明け前と後を両方体験されたんですね。最近は情報発信に力を入れているとおっしゃっていましたが、どういった理由からですか?

杉原
杉原

情報発信はこの業界に入ってからずっと続けてきましたが、最近さらに力を入れている理由の一つは、インターネット広告業界が大きな問題を抱えているからです。サードパーティCookieの問題やアドフラウドなど、オープンインターネットが危機的状況にあると感じています。もう引退できないよねっていう強い危機感がありまして、仲間を作るためにも情報発信を3倍4倍に増やして、問題提起をしているんです

丸山
丸山

背景には、業界全体への危機感があるんですね。

杉原
杉原

そうです。一人では解決できない問題ですから、多くの仲間を巻き込んで取り組んでいく必要があると感じています。

「GoogleのサードパーティCookieの方針転換」セミナーに680名の申し込みが!

丸山
丸山

先日、私も参加させて頂いたアタラさんのランチタイムLive「これで終わりじゃない。ChromeのサードパーティCookieの方針転換が意味するもの」は600名を超える申込があったというお話でした。業界からの関心の高さが伺えますが、反響はいかがでしたでしょうか?

杉原
杉原

申し込みは680名を超えて、同時接続数も500を超えていました。今まで10回以上やっているランチLiveセミナーの中で、やはり一番登録も接続も多くて。終わった後のアンケートにも300名を超える人が答えてくれたのですよね。資料をお送りするっていう名目もありましたが。

丸山
丸山

すごい回収率ですね。やはりマーケジンの記事もそうですがアタラさんのお話はわかりやすく、かつ海外の最新情報が手に入るのでありがたいです。今日はそのあたり含めて、杉原さんが感じておられる海外の温度感をお聞きしてみたいです。

海外は実際どうなっているのか?

杉原
杉原

3月にアメリカでIAB(Interactive Advertising Bureau)が主催したカンファレンスに参加してきたんですけど、そこで色々と感じることがありました。IABはデジタル広告の標準化を進める団体で、今回のイベントのテーマは「Cookie」と「プライバシーサンドボックス」でした。ニューヨークで1日開催されたこのイベントには、グーグルや英国の規制当局の代表者なども参加していて、非常に注目される内容でした。

丸山
丸山

すごいですね。直接その場で話を聞く機会があったんですね。

杉原
杉原

そうなんです。セッションがたくさんあって、1日で20以上のセッションが行われました。主なテーマは、Cookieの廃止後にどうやって広告を出すかとか、ファーストパーティーデータの利用にどう対応するかというものでしたが、特に午前中のセッションで強調されたのが、個人情報保護法案の話でしたね。

丸山
丸山

技術よりも法律の話が先なのですね。

杉原
杉原

今、アメリカではカリフォルニア州のCCPA(カリフォルニア消費者プライバシー法)が有名ですが、それをさらに厳しくした法律がワシントン州で制定されて、これが他の州でも採用されつつあります。もう時間の問題で、アメリカ全土で50州それぞれが異なる個人情報保護法を持つようになるんじゃないかという状況なんです。

丸山
丸山

それぞれの州で違う法律ができるというのは、マーケターにとっては大変ですね。

杉原
杉原

本当にそうなんですよ。IABのカンファレンスでは、マーケターが戦々恐々としているという話も出ていました。特に厳しくなるポイントは、ユーザーがデータ削除を求めたときに、迅速に対応しなければならないという部分です。例えば、ある企業Aがユーザーからデータ利用の許諾を得て、そのデータを他の提携企業BやCと共有している場合、ユーザーがA社に削除を求めたら、B社やC社にも即時に削除を通知しなければならない。これが遅れると法律違反になる可能性があります。

丸山
丸山

それは大変ですね。データの共有範囲が広がるほど、対応が複雑になりますね。

杉原
杉原

まさにそのために技術的な対策が必要になってきます。カンファレンスでは、JSON Web Token(JWT)といったテクノロジーの紹介もありましたが、それを使ってシステム間でリアルタイムに削除リクエストを処理する必要があります。Cookieの話をする前に、こうした法的な規制がますます厳密になっているのが印象的でした

丸山
丸山

日本でも、そこまで細かい規制が導入される可能性はあるんでしょうか?

杉原
杉原

日本の場合、47都道府県ごとに異なる規制を導入するということは難しいと思いますが、欧米の動向は日本の個人情報保護法にも影響を与えています。アメリカでこうした動きが強まると、日本もそれに影響されて、将来的にはより厳しくなる可能性はありますね

なぜプライバシー規制が厳しくなっているのか?

丸山
丸山

そもそも、この欧米のプライバシー規制はなぜ始まったのでしょうか?

杉原
杉原

欧米の業界がプライバシー保護を重要視するようになった背景には、デジタル広告を自主規制に任せてきた過去の失敗があると思います。たとえば金融業界や不動産業界のように、昔から規制が厳しい業界では、業界全体でルールを守るという意識が強いです。でも、デジタル広告業界は比較的新しい分野で、後から規制が追いかけてきたような感じです

丸山
丸山

確かにデジタル広告はまだまだ成長の途中で、お行儀の悪い広告もありますよね。

杉原
杉原

そうですね。その結果、他業界と同様に規制が厳しくなってきたという流れです。このまま自主規制がうまく機能しないと、規制によってファーストパーティーデータさえも使えなくなってしまう可能性があるので、業界全体で取り組む必要があります。

オープンウェブの危機

丸山
丸山

確かに、今のままだと業界としての責任感が試されますね。先ほどオープンウェブの危機というお話がありましたが、インターネットに可能性も見てきた杉原さんとしては、どういう未来像を描かれますか?

杉原
杉原

いい質問ですね。インターネットが商業化される前後を経験した立場からすると、昔はもっと自由でオープンな情報の流通がありました。でも、今は規制がどんどん増えて、インターネットが窮屈になってきていると感じます。もちろん、規制は必要なんですが、バランス感覚を持って進めていかないと、インターネットの良さが失われてしまう危険性もあります。

丸山
丸山

自由と規制のバランスですね。それが今後の大きな課題になるかもしれませんね。

杉原
杉原

はい。特に、広告の自動生成やAIの進化によって、見えないところで問題が起こることが多くなっています。かつてのようにみんなでインターネットを良くしようという意識だけでは、もう限界があるのかもしれません。業界が自主規制をしっかりと進めていかないと、規制が厳しくなる一方です。これからは、いかにバランスを取って自由でありながら、責任を持って行動できるかが問われると思います。

今後の日本

丸山
丸山

次は日本についてお聞きします。このインタビューシリーズでは様々な方とお話していますが、大きく2つに意見がわれていまして。1つは日本も同じように欧米基準に合わせて、プライバシー保護規制が厳しくなるという見方。もう1つは日本は「個人情報なんて使われてもいいんじゃないか」という比較的ゆるい空気があるので、あまり規制が入らないという意見です。杉原さんはどう思われますか?

杉原
杉原

残念ながら、私は後者の方に近い未来になるんじゃないかと思っています。つまり、日本は比較的ガバガバなまま進むのではないかということですね。ただ、そうすると急に規制が入った時には慌てて対応することになりますね。

丸山
丸山

やはりそうなんですね。

杉原
杉原

日本企業が今後どうなるかというと、グローバルな流れに追従しつつも、ファーストパーティーデータを効果的に活用できる企業は限られると思います。Cookieが廃止され、ファーストパーティーデータの重要性が高まるとしても、それを活用できる企業がどれだけいるのかという疑問が残ります。

丸山
丸山

確かに、ファーストパーティーデータが活用できそうな日本企業だとヤフーや楽天などが浮かびますが、そういう企業はまだ少なそうです。

杉原
杉原

そうです。だから、日本の企業がこの流れに乗るには、データを蓄積するための準備やシステムの整備にかなりの時間がかかると思います。グローバルな流れを理解しつつも、日本独自のやり方で対応せざるを得ないというのが現実的でしょう。ファーストパーティーデータに依存しない、日本独自のアプローチが今後生まれるかもしれませんが、今のところ、誰も明確なビジョンを示していないように感じます

海外企業とのデータ活用の違いはどこから来るのか?

丸山
丸山

Xでも投稿したことがあるんですけど、特にアマゾンのような企業は、最初からデータの重要性を見据えて動いているというか、データに関する意識が違いますよね。

杉原
杉原

そうですね。さっきのIABのカンファレンスで言い忘れたことがあるんですが、ポストCookieやハイブリッドCookieといった新しい手段が導入される中で、Cookieだけでなく他のソリューションも必要になってきています。アマゾンをはじめとした企業が、こうした新しいソリューションを積極的に打ち出していますよ。

丸山
丸山

なるほど。やはり欧米の企業はその辺り非常に早いですね。

杉原
杉原

アメリカや欧州の企業は、技術革新のスピードが速いですし、新しいソリューションが次々と出てくるのが見て取れます。特にIABのカンファレンスでは、それがショーケースとして強調されていました。これに対して、日本ではそうした話題があまり表に出てこないという現状があります。

丸山
丸山

確かに、日本では技術に対するアンテナが十分ではない印象がありますね。プライバシーサンドボックスについても、Googleに任せておけば大丈夫だろう、というような受け身の姿勢が目立ちますね。

杉原
杉原

そうなんです。Cookieは終わりではないし、新しい手段が次々に出てきているのに、そうした選択肢があまり知られていない。そして、その選択肢をどのように活用していくかという部分で、日本の企業はまだ迷走している感じがします。もっと積極的にアンテナを張って、新しい技術を選び取る必要があると思います。

丸山
丸山

個人的な思い込みもありますが、日本の企業は、トップダウンで考えるというよりも、起こったことに対してリアクションを取る傾向が強いのではないかと思います。データ活用に関して先手が打てていないというのは、そういったことも影響しているのでしょうか?

杉原
杉原

丸山さんが良いポイントを指摘してくれましたが、日本企業の問題は、マーケティングやデータ活用が経営課題として認識されていないことだと感じています。

マーケティングが経営課題にならない日本企業

丸山
丸山

具体的にはどのあたりが違うのでしょうか?

杉原
杉原

例えば、大企業の役員会で人事や財務については話し合われますよね。営業も重要な議題です。でも、マーケティングについて話されることはどれだけあるでしょうか?これが日本企業の大きな課題なんです。最近ではCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が増えてきましたが、まだまだマーケティングが経営の中核に据えられていない企業が多いです。

丸山
丸山

確かに、トップ層がマーケティングを経営の重要な要素として捉えていないと、現場がいくら頑張っても限界がありますよね。

杉原
杉原

そうなんです。経営陣が明確なビジョンを示し、データやマーケティングの方向性をトップダウンで決める企業が少ない。これが日本企業の弱点の一つです。経営層がマーケティングを経営課題として捉えなければ、現場がどれだけ頑張っても大きな変化は起こせません。

丸山
丸山

その結果、現場主導になり、組織全体が受け身の姿勢になってしまうわけですね。

DXの中心にはマーケティングがあるべき

杉原
杉原

本来DXの中核にはマーケティングが来るべきなんです。だから、DXが流行語になった時、そのままDXが経営課題になって、マーケティングも重要視されるかなと期待していました。でも、現実はそうではなかったですね。残念ながら、日本ではDXが語られるときに、ITシステムの話ばかりが出てきて、マーケティングが中心に据えられていない印象です。

丸山
丸山

確かにDXの話題って、サプライチェーンやITシステムの導入が中心の記事をよく見ます。しかし本来は顧客とのタッチポイント、つまりマーケティングの話があるべきですね。

杉原
杉原

そうなんですよ。顧客のタッチポイントこそが企業の収益源ですから、そこをどう変革していくかがDXの本質なんです。でも、日本ではその部分が決定的に欠けているので、DXの期待も大きく裏切られた感がありますね。

丸山
丸山

確かに新しい言葉が出てきた時には、その背景にある本質的な部分が伝わりにくいことが多いですよね。今回お聞きしてマーケティングがDXの中核にあるべきだという視点は、もっと広めるべきだと思いました。

海外企業はCEOが大学でDXを学んでいた

杉原
杉原

実は、コロナ前からDXが話題になっていた頃、僕はスイスの有名なIMDという大学院に短期留学して、DXを学んできたんです。その時に、やっぱりマーケティングがDXの中心にあるということを強く感じました。

丸山
丸山

向こうではマーケティングが当たり前のように語られていたんですか?

杉原
杉原

はい。僕が参加したプログラムには、全世界から50人以上の参加者が集まっていました。みんな大企業のCEOやCMOといったレベルの人たちばかりで、彼らはDXがどう業務に影響しているか、そしてその防衛策や戦略について真剣に学んでいました

丸山
丸山

すごいですね。それほどの真剣度で学んでいるんですか。

杉原
杉原

一方、日本からの参加者は僕と某メーカーのマーケティング担当の方一人だけで、彼も自費で参加していました。海外のCEOやCMOたちはDXの影響を受けている企業のトップ層で、彼らがいかに真剣にDXに取り組んでいるかということが、その場で痛感できました。

丸山
丸山

それは衝撃的ですね。日本の企業では、CEOがここまで真剣にDXを学んでいるという話はあまり聞きませんよね。

杉原
杉原

DXがビジネスを変革するものだと真剣に捉えている企業が、海外では圧倒的に多いと感じました。それが日本との大きな違いですね。

データ活用の差。これからの差をうむもの

丸山
丸山

今回用意しているテーマにもつながるんですが、勉強する人としない人の差、特にデータの活用や準備の有無で、どんな差が生まれると思いますか

杉原
杉原

勉強という言い方が適切かどうかは別にして、最近のCookie問題など、選択肢はすでにいくつも出てきています。しかし、動けていない企業が多いんです。なぜ動けていないのかを考えると、やはり自社の状況や環境を正しく理解できていないことが原因の一つでしょう。

丸山
丸山

自己分析が足りていないということでしょうか?

杉原
杉原

そうです。例えば、Cookieが激減した場合でも、推定IDの利用など、さまざまな方法があります。しかし、多くの企業はそれらの技術をきちんと分類できていない。つまり、情報が頭の中でごちゃごちゃになってしまっているんです。まずはそれらを体系立てて整理することが重要です。そして自社の状況に合ったものを選び、導入するべきなのですが、その一連のプロセスができていない企業が多いですね。

マーケティング部門の役割に変化が求められる

丸山
丸山

確かに、自社の状況に合わせて整理する力が欠けているのかもしれませんね。杉原さんはそうした企業を支援されていると思いますが、実際にどういったアプローチでサポートされていますか?

杉原
杉原

支援はもちろん行いますが、経験則としてサポートに依存してしまうだけではダメです。企業自身が自らの課題として理解し、自分たちで考えなければならないんです。外部の助けを借りることは問題ないですが、最終的には自分たちで結論を出す必要があります

丸山
丸山

そうなると最終的に決定権を持つべきは経営者なのでしょうか?

杉原
杉原

DXの中核がマーケティングである以上、おそらく日本ではマーケティング部門が主導することになるでしょう。しかしもちろん経営者のインフルエンスやサポートも不可欠です。また、個人情報保護法に関しては法務部門との連携も重要ですし、データインフラを整えるにはIT部門との協力も必要です。マーケティング部門が、まさに企業全体をオーケストレーションする役割を担わなければなりません

丸山
丸山

今のマーケティング課題は、単独で解決できるものではなく、多くのステークホルダーを巻き込む必要があるということですね。

杉原
杉原

その通りです。だからこそ、マーケティング担当者は非常に広い視野を持ち、多くの関係者と連携しなければならないんです。しかし、それができるマーケターは日本ではまだ少ないのが現状です。

デジタルマーケティング職に向く適性とは?

丸山
丸山

本当に今は意識改革が必要ですよね。とはいえ、そういったDXを推進するデジタルマーケティングの人材不足がよく話題に上がります。どういった人に適性があると思われますか?

杉原
杉原

うちでコンサルティングを任せている人材の一人が面白い例です。彼はもともとインハウスマーケターとして様々な経験を積み、その後代理店やECの分野でも経験を積み、最終的にはフルスタックマーケターとして成長しました。つまり、自分なりのキャリアプランを考え、幅広い経験を持つ人は適性があると感じます。

丸山
丸山

自分の強みにフォーカスしながらも、幅広い経験を持つ人ということでしょうか。

杉原
杉原

そうですね。基本的に「トライアンドエラー」を恐れずに実践する人が、マーケティングには向いていると思います。特に、その実践の中で発見したことの本質を考える力を持つ人が非常に強いです。例えば、今起きている現象の意味を深く考え、それが業界にどのような影響を与えるのかを常に考えることが大切です。

丸山
丸山

杉原さんの中で、本質を見極める力を持っている人の特徴って掴んでいたりしますか?

杉原
杉原

そうですね。一つの鍵は質問力な気がします。質問を持ち、実際に自分で試してみようとする人は、学習スピードが圧倒的に早いです。特に実際に手を動かして学ぶことが一番効果的ですね。知識だけでなく、実践を通じて学んでいくことが重要です。

丸山
丸山

なるほど。一方、日本では、一つの専門を極めることが良しとされることも多いので、その点では柔軟なキャリア形成が難しいという課題もあるかもしれませんね。

杉原
杉原

確かに、日本では転職を繰り返す人に対してネガティブなイメージがあることもありますね。しかし、マーケティングという仕事自体が、柔軟な適応力を求めるものですので、変化を恐れずに挑戦する人の方が向いているということがあるかも知れません。

これから投資すべき分野と金額

丸山
丸山

ありがとうございます。最後に、DXを推進する場合、人材やテクノロジーなどにリソースを突っ込む必要があると思いますが、成功させるためには、どういったことに投資するべきだとお考えですか?

杉原
杉原

投資すべき分野としては、おっしゃるようにシステムやテクノロジー、人材と多岐にわたると思います。投資については、リターンを見据えた思い切りが大切ではないかと思います。アメリカの例なんですけど、大規模な投資をしている企業は、リターンも大きい。アルバートソンという有名なスーパーの一部門として立ち上げたリテールメディアが、現在300人を雇用する会社に成長してますからね。でも日本だと兼務とか、多くて5〜10人くらいの印象です。

丸山
丸山

確かに、日本とアメリカでは企業規模や投資額に大きな差がありそうですね。そういった適切な投資額を知るために外部のコンサルタントを頼るというのはどう思われますか?

杉原
杉原

そうですね。優秀な広告代理店もたくさんあるし、コンサルティング会社もいろんなことができますので、日本企業も外部のサポートを利用することは悪いことではありませんが、丸投げではなく、自分たちで考え、最終的な意思決定は自分たちで行う必要があります。それができる会社が増えれば、日本ももっと成長すると思います。プロダクトは良いわけですから。

丸山
丸山

なるほど。

杉原
杉原

意思決定は、それこそもう決めるだけの話だから、その前準備ですよね。デジタルによって世の中がどのように変化し、自社の強みからのリターンをどこで得るのか。さっきの話ではないですけど、アメリカではマーケティングを中核においたDXを推進し、リテールメディアで300人雇用できるまで成長させた会社もあるんです。日本にも似たような潜在能力をもっているけど、実行していない会社が多いとしたらもったいないですよね。

丸山
丸山

ちゃんと勉強して、リターンを求めて思い切った投資をする。企業として最も大切な活動ともいえますね。

杉原
杉原

はい。いろいろな課題はあると思うのですが、日本企業がもつ潜在能力が発揮されていないのは本当にもったいないと思っていて。私もそうですし、日本のメディアも、もっと情報発信をして、DXの中核にマーケティングをおくべきだったり、思い切った投資をしていくべきだと真剣に伝えていっても、悪くないと思っているんです。

丸山
丸山

ありがとうございます。今日は知らないお話をたくさんお聞きでき、とても楽しかったです。

対談を終えて

杉原さんとお話して、一番の印象は「杉原さんは数年以上、時代を先読みしている人」でした。インターネットの可能性や、APIの可能性にいち早く気づき、誰もがやっていないことを切り拓いてこられた杉原さん。その杉原さんがコロナ前からスイスの大学でDXを学び、今オープンウェブの危機が来ているという警鐘を出してくれているのはありがたいことだと思いました。おそらくこの未来は数年で来るのでしょう。

この未来が実際に訪れた時に、対処療法のように対応するという従来の日本式のやり方ももちろんよいと思いますが、杉原さんがおっしゃるように、日本企業はポテンシャルがあるわけで、それこそ数年先を見据えて、思い切った投資ができれば、とても大きなリターンを得ることができるかも知れません。

いよいよ規制が入り始めたインターネット業界。とはいえAIもきている中で、面白い時代に突入しているのは間違いなく。マーケティングを経営の中核に据えて、トライアンドエラーの精神で切り拓く新しい日本企業が出てきたら面白いなぁと思いました。

なお杉原さんのお話をうけて、弊社作成のDX人材の資料をアップデートしています。また杉原さんなど専門家のみなさんとの対談をまとめた冊子「クッキー廃止の影響とウェブの未来:専門家たちの提言 -vol1-」も無料配布しています。登録不要で閲覧・ダウンロードできますので、よかったらご利用ください。